オイルサンド貯留層モデリング
オイルサンド層と呼ばれる貯留層は、砂層と泥層がさまざまな厚さや割合で複雑に混ざったもので、このうちの砂層にビチューメンと呼ばれる超重質油が含まれています。
JAPEXは、1978年から取り組んでいたカナダにおけるオイルサンド層の開発において、SAGD(Steam-Assisted Gravity Drainage)法と呼ばれるビチューメン生産方法の確立に貢献しました。このSAGD法を使ったビチューメンの生産効率を向上させるため、多点法による地球統計学を用いた地質モデリング技術を活用しました。
注)カナダ・オイルサンドプロジェクトへの当社参画は2021年9月に終了。
地球統計学と石油開発
地球統計学は、自然界のさまざまな現象の空間的、時間的な関連性をモデル化して推定を行う統計学です。地下にある天然資源の埋蔵量予測から発展した応用数学分野の一つです。
石油開発での活用
石油開発における貯留層の評価や分布推定には、地球統計学の活用が不可欠です。なかでも、地層の形成過程を反映できる地球統計学手法のうち、最も優れたものの一つが多点法です。
JAPEXは研究段階から多点法の可能性に着目し、石油開発における実用化に取り組んできました。地層の形成過程である「堆積システム」をモデルに反映できる多点法を用いて、砂層や泥層の分布を表す地質モデルを構築しています。多点法では、堆積システムを反映した「訓練像」をまず作成し、訓練像からパターンを取り出すことで、堆積システムを取り込んだ地質モデルを構築します。
カナダ・アルバータ州のオイルサンド開発では、複雑な地層であるオイルサンド層を対象に、構築した地質モデルをもとに砂層や泥層の分布の不均質性を評価し、生産効率の向上を図っています。また別のプロジェクトでは、火山岩貯留層など複雑な貯留層の地質モデルの構築と評価に、多点法を活用しています。
オイルサンド層モデリングのプロセス
砂層と泥層が複雑に混合するオイルサンド層では、泥層はSAGD法の蒸気圧入の障壁となり、生産効率低下の要因になります。
JAPEXが開発するカナダ・アルバータ州のオイルサンド層は、蛇行河川システムのもとで堆積したと考えられています。この前提をもとに、オイルサンド層を構成する2種類の堆積物である「ポイントバー」と「放棄チャネル」に区分し、それぞれの中での砂層や泥層の分布(岩相分布)を4段階のワークフローで推定していきます。
- 「ポイントバー」の堆積物:河川の流れに乗って川底を転がったりしながら移動した砂粒や浮いて移動してきた泥粒が、蛇行する流路の内側で積み重なった堆積物
- 「放棄チャネル」の堆積物:河川の蛇行の繰り返しで三日月湖として本流から切り離され、取り残された河川(放棄チャネル)地形を埋めた堆積物
4段階のワークフロー
- 1) 3D地震探査および坑井データにもとづいてポイントバー堆積物や放棄チャネル堆積物の分布を解釈
- 2) フレームワークモデルをa)にもとづいて構築
- 3) ポイントバーでの堆積システム(堆積・削剥過程)を反映した訓練像を作成
- 4) ポイントバー堆積物の砂層や泥層の分布モデルは多点法、放棄チャネル堆積物の砂層や泥層の分布モデルは二点法を用いて構築
地質モデル構築ワークフロー
(出典:辻ほか, 2013 (c)日本地質学会=*1)
1) 3D地震探査および坑井データの解釈
a)は3D地震探査データ、b)の色付けされた線はポイントバー堆積物内の堆積・削剝面および放棄チャネルの壁面を解釈したものです。このとき、坑井データは解釈の補助として使用します。
c)はb)の解釈線を取捨選択し、フレームワークモデルのもとになる解釈線を作成したものです。
3D地震探査データの解釈手順
(出典:辻ほか, 2013 (c)日本地質学会=*1)
2) フレームワークモデルの構築
1) のc)で作成した解釈線にもとづき、フレームワークモデルを構築します。
ポイントバー堆積物と放棄チャネル堆積物の分布を表現したフレームワークモデル
(出典:辻ほか, 2013 (c)日本地質学会=*1)
3) 訓練像の作成
ポイントバーでの堆積・削剝過程を反映した訓練像を作成します。
- A: 想定されるさまざまな砂層や泥層の分布を示すポイントバーサブユニットを多数作成
- B: ポイントバーでの堆積・削剝過程を考慮して、サブユニットを重ねる
- C: サブユニットを重ねて構築した訓練像の一例
ポイントバー堆積物の岩相分布のための訓練像作成概念
(出典:辻ほか, 2013 (c)日本地質学会=*1)
4) 地質モデルの構築
多点法および二点法を用いて構築した地質モデル(砂層や泥層分布)の一例です。構築したモデルは、部分的に切り取ってSAGD法による生産のパフォーマンス予測に活用しています。
- モデル構築の際には、坑井で認められる砂層や泥層分布データをハードデータ、砂層や泥層の出現確率をソフトデータとして利用
- 砂層や泥層の確率は3D地震探査データと坑井データとの対応関係から算出
構築された岩相分布モデルの一例
(出典:辻ほか, 2013 (c)日本地質学会=*1)
(出典)
*1: 辻隆司・高野修・渡部哲子・岡田欣也・柏原功治・川田耕司・加藤新・中神康一, 2013, 不確実性評価のための蛇行河川堆積物岩相分布モデル ,地質学雑誌, 119, 8
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